冤罪から死に戻った悪女は魔法伯の花嫁に望まれる

 パートナー連れが普通の夜会に一人で出席する時点でも屈辱だが、二度目ともなると何の感慨も湧かない。
 一度目は周囲の様子を窺う余裕はなかったが、今ならわかる。何が起こっているかわからない若い貴族以外は、余興が始まったとばかりに嬉しそうな気配を隠そうともしない。淑女は扇の下に笑みを忍ばせて。紳士は罠にかかった獲物を見つめる視線で。
 
(この反応、やはり……。オペラの観客気分なのでしょうね。まったく悪趣味だこと)

 公共の場で婚約者を断罪するなど、とても褒められた行為ではない。婚約破棄なら書面上で済む話だし、わざわざ大勢の貴族が集う舞踏会で言う必要はない。
 本来なら、こうなる前に王子の側近が止めるべきだ。
 それが黙認されているということは、それだけルーリエを悪女にしたいのだろう。元婚約者が悪女ならば、婚約破棄に王子の過失はない。しかも被害者のヘレンに同情が集まる。