身の潔白を証明するにはヘレンの悪行を暴く必要がある。しかし、あれは狡猾な女だ。男の庇護欲をそそる仕草で無害な女を演じている。その上でどう立ち回ればいいのかを知っている。だが同時に、同性からは嫌われるタイプだ。
 正面から立ち向かうルーリエと相性が悪すぎる。

(とりあえず、婚約解消の問題は後回しね。運命を覆すには切り札が必要だわ)

 しかしながら、そう簡単に奥の手が見つかれば苦労はない。本日二度目の深いため息をつく。すると、背中から気遣う声が聞こえた。

「……失礼、レディ。もし気分が優れないのでしたら、メイドを呼びますが」
「あ……あなたは……」

 振り返ると、燕尾服を着た紳士がいた。ルーリエよりは年上だが、まだ二十代だろう。整った顔立ちに仕立てのよい服。紺碧の瞳は長い睫毛に縁取られ、群青の髪色はラピスラズリを彷彿とさせる。