仁科さんはそんなわたしの懐事情を知ってか知らずか、こんな提案をした。
【以前、飛鳥馬様が七瀬様と旅行に出かけたいと呟かれていたのを耳にしました。そこで、私から提案なのですが、こちらの宿を予約するのはいかがでしょう。資金はすべてこちらで整えるので、七瀬様にご準備していただく必要はありません】
白紙には達筆な筆跡でそう書かれている。
それを読み終えて、わたしはあまりの驚きに目を見開いた。
「そっ、そんな……!」
仁科さんに旅行費を工面してもらうのは、さすがに図々しすぎて遠慮しようとすぐさま口を開いたが──
仁科さんは細く長い人さし指を自分の唇に当て、次に続く言葉を制した。
わたしは思わず大声をあげてしまったことにはっとして、ここは昼の人間が大勢いる喫茶店だったことを思い出す。
ここで目立ってしまうのは、なんとしても避けなければならないのだ。
【これは私からの、日々お側であの方のお心を支えてくださる七瀬様へのささやかな御礼です】
仁科さんは続けてペンを走らせ、わたしに見せて柔らかく微笑んだ。
……っ。
わたしは、そんな言葉を受け取る資格があるほど、麗仁くんをちゃんと支えてあげられているのだろうか。



