本当は分かっていた。
麗仁くんは優しいけれど、それだけじゃないって。
麗仁くんのなかには、いつもこの街の皇帝としての恐ろしさと強さと凶暴さがあるんだ。
そんなことは最初から分かっていたはずなのに、いつからわたしは、自分が見たい優しい麗仁くんだけを目に移していたんだろう。
麗仁くんは皇帝で、この街全体を統治するお方なのに。
誰からも恐れ崇められ、一時も舐められることのない姿で佇んでいる。
「あやちゃん、ごめんね。こんな姿見せちゃって」
申し訳なさそうに笑って腰を上げた麗仁くんがそう言いながらわたしに近づいてくる。
だけど、その瞳は全く笑ってなんかいなかった。
麗仁くんはあれから、リーダー格の男の他にもう二人の男たちのことも殴り潰した。
「……っ」
わたしの頬に触れようとした麗仁くんの手を、わたしは咄嗟に振り払ってしまった。
目の前にいるのは確かにわたしの好きな麗仁くんのはずなのに、全然違う。今の麗仁くんは、わたしの好きな麗仁くんじゃない。
“怖いよ───”
震える唇から漏れたわたしの言葉に、麗仁くんはその綺麗な顔を苦痛に歪めた。
そして再度わたしに伸ばそうとした手を力なくだらりと落とした。
街灯さえない真っ暗闇の路地裏で、わたしの身体は震えてばかり。麗仁くんに会いたくて夜の街に足を踏み込んだのに、こんなことになるなら家で麗仁くんを待つんだった。



