……そう言えば、あの人たちの口から麗仁くんの名前が聞こえたような。
昼の街では麗仁くんの名前は絶対に囁かれないのに、夜の街では所々から聞こえてくる。
麗仁くんに会えるかも分からないまま、その名前を追ってひたすらに夜闇の中を彷徨う。
今夜は月のない夜だった。雲に隠れているわけでもない、新月の日。そんな日は真っ暗で、頼りない蛍光灯はその役割を果たしていない。
日が落ちれば、昼の街は一変、全く知らない場所へ変わる。知っているはずの道も、初めて見る景色のように視界に映る。
───わたしは、道に迷ってしまったかもしれない。
辺りには高くそびえる廃ビルが同じように並んでいるだけで、何か目印になるようなものは何もない。道路も消え、街の明かりも遠のいたこの場所で、わたしは途方に暮れた。
「どうしよう……っ」
わたしのバカ!アホ!
どうして夜の街に出ようとしたの!!
今いる場所が知らない場所だと思うと、一気に恐怖が襲ってくる。
「あれ? ど〜したのー? こーんなとこに女の子一人なんて、危ないよ」
ドンッと人にぶつかった衝撃が背中に伝わる。
目を見開いたわたしのこめかみから冷や汗が流れ落ちた。
一番遭遇したくなかった事態に背筋が凍る。



