───もう、耐えられない。
そう思って、ソファから立ち上がった。スマホを右手に握りしめて、わたしは壁に掛けてあった薄い上着を羽織って玄関へつま先を向けた。
わたしは麗仁くんのぬくもりを知ってしまった。1人じゃないことの安心感と幸福感を、知ってしまったのだ。
だからもう、この孤独には耐えられない。
前までは耐えられたはずだ。感じることもなかったかもしれない。だけどわたしは、麗仁くんを好きになって、少し弱くなった。
誰かに甘える、誰かを想うその気持ちは、わたしを強くさせ、一方では弱くさせるんだ。
わたしは靴を履き、深呼吸をしてドアノブを握って夜の世界へ足を踏み入れた。
𓆸 𓆸
「お前、あの飛鳥馬サマの女の顔、知ってるか?」
「いや、知らねえよ。ウワサじゃこっちの住人じゃないらしいな」
「夜の街にだって美しい女はわんさかいるのに、なぜ昼の女を選んだのか、分かんねえな……」
影の差した暗い路地で、男たちのヒソヒソとした話し声が恐れをにじませて地を這う。
「俺、1度でいいから見てみてえわ。その女の顔」
───この街は、夜になると目を光らせた虎が虎視眈々と迂回を始める。



