綺麗な唇の小さな隙間から、気だるげそうに吐き出されたため息に、わたしの心臓がドクンと嫌な音を立てる。
どうしよう。わたし、やっぱり麗仁くんが嫌がるようなことしちゃったのかな……。
「あやちゃんって、ほんとダメだと思う」
麗仁くんから告げられたオブラートさの欠片もない言葉に、わたしは雷を食らったかのごとく驚愕した。
「……っえ」
わたし、やっぱり何かしちゃったんだ。
顔が青ざめるのを感じた。目の前の麗仁くんは睫毛を伏せ、長い前髪が赤く染まった頬を隠している。
麗仁くんからわたしへの怒りは感じられず、怒っているわけではないと分かりほっと安堵の息を漏らす。
「ほんと、翻弄されるおれの気持ちにもなれよ……」
次にぼそぼそと呟かれたその低音は、小さすぎてわたしの耳には届かなかった。
𓆸 𓆸
最近は麗仁くんが家に帰らない日が続いている。
平日はわたしも学校だから家を空ける時間が長いけれど、休日は麗仁くんのいない家にひとりぼっち。
何かをして寂しさを紛らわせようとするけれど、どうしても孤独感が拭えない。
麗仁くんは仕事をしているのだから、早く帰ってきて欲しいなんて身勝手なわがままは言えない。



