「えー、なにそれ」と隣で笑うあやちゃんの笑顔が見られるのなら、どこまでもしょうもなくなれる気がする。
逆に、あやちゃんがいなければおれは前と同じように、笑うことのできない毎日を送ることになるだろう。
「──あ!あれ食べたい!」
あやちゃんの指差す方向には、りんご飴の屋台があった。
甘いもの好きなあやちゃんらしいな、と頬を緩ませながら、おれはその列の最後尾に並ぶ。
大勢の人間で溢れかえっているこの場所にも、おれを皇帝だと認知している者はいない。
それがどれだけ心に安息を与えているかは計り知れないほど。
「果物に飴を塗るなんて、よく考えるもんだね」
「ねっ、ほんと、天才の発想だよ! きっと、絶対においしいんだろうなあ……」
屋台に向けてキラキラとした眼差しを送るあやちゃんを横目に、おれは気になったことを訊いてみる。
「あやちゃんは、りんご飴食べたことないの?」
「う、うん。実は、食べたことないんだ」
その表情に一瞬暗い影が差す。
そこでようやく、今の質問はするべきじゃなかったと気づいた。
あやちゃんの家庭は決して裕福ではない。
それに、ここで生まれ育ったのだから、祭りに売られているりんご飴を食べていないのも当たり前のことだろう。



