いつもはおれ自らあやちゃんの家に赴くけど、今日は違う。あやちゃんが皇神居でおれを待っていたいと言ったから、配下の奴らにはあやちゃんが来ることを伝えた。


……はぁ、あやちゃんを待たせてるなんて、ほんと情けない。

今頃あやちゃんは1人でおれを待ってるんだろうなぁ……。


おれが約束の時間よりも少し遅れることはさっきあやちゃんのスマホに連絡を入れたからいいとして、問題はおれの機嫌だ。


あやちゃんとの予定を潰されたせいで、イライラが募ったこの状態は色々とマズい。


「……飛鳥馬様、その機嫌の悪さ、どうにかなりませんか」


おれの隣から小声でそう諭してくる男は、この街の仕組みのこと全てを知っているような目をしていた。


───裏社会に生きるおれたちは、常に冷静に物事を判断しなければならない。


……仕方ない、あやちゃんのことは少しの間忘れよう。


飛鳥馬家の祖訓を思い出し、おれはようやく冷静さを取り戻した。

そうでもしないとシゴトに集中できないなんて、悲しさを通り越して何だか笑えてくる。


暗くて治安の悪そうな薄汚れた路地を歩く。


高層ビルの間を縫って、行き止まりにある1つの扉。

この先には、今日も妖しい光を洩らした闇カジノが開かれている。


飛び交う膨大な量のチップ。

巧みな情報戦。