……でも、ちょっとはね。

「もう少しくらいは、黒峰君といたかったな……。」

 なんて、思ってしまった。

 私からしたらそれはほんの些細な呟きだったんだけれど、どうやらそれが嶺緒君の気に触れたようで。

 いきなり大きな手に腕を掴まれ、ぐいっと引っ張られた。

「ね、嶺緒君……!?」

 ちょっと待って、どこ行くの……っ?

 そんな言葉も虚しく、あっという間に近くの路地裏へと連れ込まれる。

 そしてコンクリートの壁に乱暴に押し付けられ、動きを封じられた。

「あの、嶺緒君っ……! なに、するの……?」

 私がそう聞いても、嶺緒君は喋ってくれない。

 それどころか、掴んでいる手の力が強まって痛い。

 様子がおかしい……いつもよりも乱暴っていうか……。

「ねお、く――」

「桃香は黒峰みたいなのがいいの? 俺じゃなくて?」

「そ、そんなわけっ……」

「じゃあ! どうしてあんな男といたがるんだよ!!」

「っ……。」

 嶺緒君の言い分は合っている。間違ってるのは私のほうだって知っている。