黒峰くん、独占禁止。

 言えない。言ってしまったらもっと怒らせてしまう。

 ……でも、逆らえない。

 私は嶺緒君には、逆らえない。

 そう、仕込まれたから。

 ぁ……と、声にならない声がいやに耳に残る。

「ね、いいでしょ?」

「っ……。」

 嶺緒君が私の腕を掴んで、読めない笑顔でそう囁く。

 わ、わたし、は……。

 ……私、は。

 ――ドンッ

「ごめ……っ、私、行かなきゃならないとこが、あるの……っ!」

 初めて。

 初めて、嶺緒君を突き飛ばした。

 初めて、嶺緒君に逆らった。

 逆らえないと思っていたのに、自分がどうしたいかを考えたら、すぐに体が動いた。

 ……自分でも、自分の行動に驚きを隠せない。

 けれど、このチャンスを使わないわけにはいかない。

 そのまま踵を返し、一刻でも早くこの場から離れる。

 もしかしたら追ってくるかも……と心配したけど、いつまで経っても足音が聞こえてこなかったから追ってはきてないんだろう。

 その事に安堵し、今度こそ黒峰君のいるであろう場所に向かう。