私に関する悪い噂は、いつの間にか綺麗さっぱりなくなっていた。

 男タラシだの何だの言われていたけど、今では後ろ指を指される事はない。

 きっと嶺緒君がそうなるように仕向けてくれているおかげだ。

 いつかお礼が言いたい。けど、電話をかけても応答してくれない。

 もしかして徹底的に私に関わらないようにしてくれてるのかな……なんて。

「……なぁ春宮、今何考えてた?」

「うぇ? ……ウウン、ナンニモ。」

「嘘吐け。すげー片言だぞ。」

「……うぅっ。」

 ある日の放課後、缶ジュースを片手に黒峰君と河原の芝生に座っていた時。

 不意に話しかけられ、ビクッと肩が震えた。

「……ちょっとだけ、嶺緒君のこと考えちゃってた。」

「やはりな。春宮は深刻そうな顔する時は、大抵どうでもいい事考えてる時だ。」

「なっ……! どうでもいいって――」

「俺といる時は俺のことだけ考えてろって。」

 まだ缶ジュースを開けていなくて良かった。

 急に腰を抱かれたかと思うと一気に引き寄せられ、缶ジュースの中身が音を鳴らした。