「……ううん、思わない。」

 黒峰君の言動は、嘘じゃなかった。

 本当に私を愛してくれていたんだ。

 ……あんなにも淡い願いが叶うなんて、思ってもみなかった。

 そう感傷に浸ると同時に、安心したのかぶわっと涙に襲われる。

 それを見た黒峰君は驚いたように目を見開くも、クスクス笑っていた。

「どうした? 春宮。」

「た、多分……安心して、ちょっと気が緩んじゃったんだと思う……。」

「そうか。可愛いな、桃香は。」

「……え、い、今、名前いっ――」

 言った……!?と、びっくりする暇も与えてもらえず。

 私の唇は見事、黒峰君によって塞がれてしまった。

 柔らかくて温かい感触が、嘘じゃないと教えてくれる。

 やっぱり、黒峰君は安心するなぁ……。

 この時改めて、そう感じざるを得なかった。