言ってしまった、口走ってしまった。

 失態を犯してしまった後に焦りが生まれ、そのせいで唇が思うように動かない。

 それでも嶺緒君が私に手を出してこなかったのは……嶺緒君に、相当なショックを負わせてしまっていたからだった。

 嶺緒君の目が零れそうなほど大きく開いていて、こっちが驚きそうになる。

 でも、それもそうだよね。

 今まで私は……私自身も、嶺緒君を好きだと思っていた。そうだと思い込んでいた。

 口でも嶺緒君を好きだと言っていたのに、実は黒峰君が好きだったなんて。

 嶺緒君にとってはショックの何物でもないし、私が嶺緒君の立場に立ってもショックを受ける事間違いないだろう。

 だけど、もういい。

 嶺緒君、許して。

 私が黒峰君を好きでいる事を、許して……っ。

「桃香、本気?」

「……ごめん、なさい。」

 嶺緒君の問いかけに、まともな返答ができない。

 変わりに掠れたような声で謝ると、嶺緒君は呆れたようなため息を吐いた。

「桃香が好きなのは、誰?」

「……黒峰君、だよ。」

「俺のこと、嫌いなの?」

「嫌いなわけ、じゃないよ。」

 嫌いじゃないよ、むしろ好きだと思っている。

 けどそれは家族愛のような“好き”で、嶺緒君に恋情とかは持っていない。

 だから……こんな最低な私で、ごめんなさい。