想像もしていなかった力で胸倉を掴まれてしまい、呼吸が浅くなる。

 抉ってはいけない傷口を抉ってしまったとその時に気付き、真冬さんを視界に入れた。

 ……真冬さんは、苦しそうな悔しそうな、複雑な表情でいた。

「圓光寺君ってかっこいいらしいじゃない? なのに、夜風にも手を出しているだなんて……確かに男タラシね。」

 胸倉から手を離し、黒髪を吹かせながら翻る真冬さん。

 もう優しい真冬さんの面影はなく、最後に振り返ると私を仇のような目で見てきた。

「だから、金輪際夜風には近付かないで。分かった?」

 ……っ。

 いずれ、こう言われるんだって知っていた。

 それなのにいざ言われてしまうと、ここぞとばかりに泣きたくなる。

 言いたい事を言えてすっきりした様子の真冬さんは、今朝までの柔らかい笑顔で屋上を去っていった。

 私の中に、苦い気持ちが残ったまま。