黒峰くん、独占禁止。

 ただ、嶺緒君が悪者になっちゃうから。

 そう言おうとしたのに、上手いように言葉は紡げない。

 それは緊張か、不安か、心配か……どれかなんて分からない。

 一つだけ、分かるのは。

「桃香を拾ったのは俺なのに、何で黒峰なんかのとこに行くの。」

「ご、ごめんなさっ……」

「別に謝んなくていいよ。桃香は断れない性だから、分かってる。黒峰にムカつくだけ。」

 腕を引っ張られたと思うと、あっという間に嶺緒君の腕に閉じ込められる。

 黒峰君とは違う爽やかなシトラスの香りが目の前を掠めて、ぎゅっと拳を握った。

「なぁ、桃香は誰のもん?」

「……ね、嶺緒君、の……もの。」

「分かってるならいいんだよ、ももちゃん。」

 私のことを“ももちゃん”と呼ぶ時は、比較的落ち着いていて穏やかな時。

 “桃香”と呼ぶ時は……機嫌が悪い時。

 その変わりようは本当に凄くて、ずっと一緒にいる私でも驚いてしまう。

 そして、大体決まった質問をしてくる時は呼び捨てだ。

『桃香は誰のもの?』

 そう聞かれたら、私は決まって同じ答えをしなければならない。