水鏡を渡って到着した先は、建物の中だった。殺風景な家具が殆どない部屋の中。窓の向こうの景色からしてアパルトマンの一室だろうか。

「ついたみたいね…」
「あそこから出られるのか?」

 リークが指さした先には茶色いドアがある。試しに私がゆっくりとドアを開くと廊下に出た。
 廊下の左前方には、螺旋階段がある。そこを下り頑丈な作りのドアを開けると外に出た。

「わあ…」

 街は人で一杯だ。リークは頭に被ったハンチング帽をぎゅっと深く被り直す。
 私達を見ている者は、誰一人としていない。

「すごい人だな」
「ええ、この街は昔からそうだから」

 年代ものの建造物が所狭しと立ち並んでいる。道は引っ切り無しに人だけでなく馬車が通る。
 そして獣人は今の所見られない。ここで前世の記憶を引っ張りだしてみよう…ああ、この街にはいなかったな。そう言えば。

「花屋がある」
「確かにそうね」

 リークは色とりどりの花が並ぶ花屋に興味を抱いているようだ。

「入ってみる?」
「うん、ナターシャも行こう」

 という事で花屋に入ってみる事にした。店内の壁には皇族御用達を示す証書がデカデカと貼られている。

「あれ?」
「リーク、どうかしたの?」
「店主を見ても気が付かない。目線は何度も合っているが…ああ、ネックレスの効果か」

 ネックレスの効果により、いわば私達は透明人間の状態になっているようだ。

「ネックレス外してみる」

 と、リークがネックレスを外すと、すぐさま中年の男の店主はリークに気がついたのだった。

「おや、いらっしゃい!」
「あの、おすすめの花とかあります?」

 リークが店主におすすめの花を聞いた。すると店主は自分の右横にある花入れから1輪の赤い花を出した。

「これだよ。皇帝陛下が好きな花さ」