(おっ狼男?!!)

 狼男は迫害されてきた存在である。人を喰らうなど長らく酷い「噂」を流されてきた存在である。だが人を喰らう事は人と同じで飢えに苦しんでいる事以外ないというのを私は知っている。
 だからこそ、彼らも利用してきたのだから。

「大丈夫か?家の中へ入れ」

 狼男は全く疑う様子も見せず、手を伸ばして私を家の中へ招き入れようとする。

「いや、あなたその…疑わないの?誰かも分からないのに」
「血だらけだし見過ごせない」

 私は渋々彼の誘いに乗り、家の中に入った。中は狭いが人間の住む家とさほど変わらないように見える。
 テーブルもタンスもベッドも全て木で出来ており、うっすらと暖かい雰囲気が漂っている。また、窓の横にはストーブがあり、その上にはちょっと古めのケトルらしきものが置かれてある。

「へえ…」 
「こっちに座れ」

 リビングの椅子に座るよう促された私は、言葉通りにすると、狼男は隣のキッチンへと消えていった。

「…」
(警戒心がなさすぎる)

 しばらくして、濡れた白い手ぬぐいと使い古された桶を持って彼は戻って来た。

「これで拭くといい」
「ありがとう…」
(傷はしみるけど、見た目はましにはなるか)

 すると狼男は、ズボンのポケットから葉っぱを数枚取り出して私へ差し出す。

「これは?」
「薬草だ」

 薬草を傷口に貼り、治りを促す。所謂民間療法の一つだ。あまり当てにはならないが、薬草に全く効果が無い訳でも無いので「ちょっとはマシ」と言う程度だろう。
 桶の水で葉っぱをすすいで傷口に当てると、痛みが若干じんわりと和らいでくる。

(何もしないよりかはマシか)

 そんな私を狼男はじっと立ち尽くしたまま、見つめている。

「何かしら」

 いても立ってもいられず、私は狼男に声をかけたのだった。すると狼男は口をもごもごと開く。

「ああ、その」
「あの、私に何か?」
「お前の名は?」