「通してください」

 無駄なあがきとは分かってはいたが、一応はそう言ってはみた。

「断る。貴様は一生ここにいるのだ」
「ナターシャ妃は…そんな事望んではないのでは?」
「黙れ、貴様に何がわかる」

 何が分かるも何も、私が当のナターシャなのだが。
 次第に腹が立ってきた。もう会話は通じないだろう。

「通してくれないなら…!」

 私は走る。そしてリークらも私の後に続く。
 キムが待ってましたと言わんばかりに、剣を振るった時の事。ウサギが魔力を爆発させて煙幕を張る。

「!」

 だが、キムの振るう剣が私の左二の腕付近に命中した。激しい痛みが瞬く間に走る。

「ぐっ!」

 ここは我慢しなければ。尚もキムは剣、そして銃まで向けてくる。しかし煙幕もあってか狙いが定まらないようだ。

「ナターシャめ…!」

 キムが私の胸めがけて剣を刺そうとしてきた。

(終わった)

 私は咄嗟に目を閉じた。しかし…痛みは腕しかない。
 ゆっくりと目を開くと煙幕は解けていた。

「な、に…」

 キムの私からして左首に、リークが噛みついていた。首からは血が大量に吹き出している。

「きさま、狼男、か…」
「ナターシャを傷つける者は、許さない」

 リークが口を離すと、キムはがっくりとその場に倒れていく。
 私はそんな彼へ…「種明かし」をする事に決めた。

「キム。私こそ…貴方が求めていたナターシャよ」
「ナターシャ…?」
「私はナターシャ妃の生まれ変わり。陛下…私がせめて火あぶりになる前に寵愛して欲しかったわ」
「…すまな、かった…」

 キムの謝罪の言葉が、ずしりと重くのしかかる。 

「遅すぎます。陛下…そして、私も」

 キムはこうして力尽きていった。