母親は目を丸くさせる。そして何度か何かを飲み込むようにして頷いた。

「…信じるわ」
「ありがとう」
「…あなたも陛下の寵愛を受けたの?」

 おそらくは夜のお務めを果たしたかどうかを聞いているのだろう。私は体調を崩しているのでまだだ。と伝えた。

「身体を冷やしちゃ駄目よ。無理はしないでゆっくり休みなさいね」
「ええ」

 すると、遠くから女性の叫び声が聞こえて来た。

「!」

 私達は急いで部屋に戻る。母親も一緒に連れて部屋の中に入り、扉を少し開けると外の様子を見る。

 すたすたすた…

 早足でこちらへと近寄る足音が聞こえて来た。

「皆、私の後ろへ!」

 ナジャが自身の背中側に回るように促す。私はナジャの背中からおそるおそる外の様子を伺う事にした。
 すると、1人の兵士がこちらへと真っ直ぐに走ってきた。

「ナターシャ!ナジャ!」

 兵士はなんと、変装したリークだった。

「り、リーク…?」
「皆、早く…!」

 リークが手を伸ばす。私とナジャは迷うことなく部屋を出た。しかもナジャは器用に自身のかつ私が借りていたドレスも回収していた。しかし母親はまだ部屋の中にいる。

「あ、あなたは…?」
「私の知り合い!良い人だから安心して!」

 母親は警戒しながらもこちらへとやって来た。

「さあ、出入り口まで行くぞ。後はレジスタンスがどうにかする」
 
 廊下を歩き出すと、更にメイルとウサギに侍医の2人1羽と合流する。
 ここで侍女が追ってこない事に気づいた。振り返ると侍女は寝息を立てて寝ている。

「メイルさんが?」
「ええ、おねんねの魔法よ。さあ、レジスタンスの人達が戦っている間にここを出ましょう!」

 流石は魔女。頼れる存在だ。

「さあ、出入り口まであと少しよ!」

 メイルがそう言って私達を鼓舞する。
 しかし。あの男はが簡単に私を逃がす事は、無かったようだ。

「ふん、ここからは出さぬ」
「キム…!」

 出入り口がすぐ向こうにある。しかし目の前にはキムが剣を持って立ちはだかっていた。