ナターシャとナジャが捕らえられ、馬車に乗せられ後宮へ移送され始めた時。メイルとマッシュは縄から解き放たれ大通りから帰るように指示を受けた。

「あの2人はどうなるのじゃ?!」

 と、叫ぶように兵士へ尋ねるマッシュ。

「あの2人はこれから陛下の寵愛を受ける」
「し、死にはしないんじゃな?」
「大丈夫だ。殺しはしない。陛下の機嫌を損なうような真似をしなければな」

 パレードは勿論中止。ローティカの街から兵士は引き上げていった。街にはまだケインら銃撃戦で犠牲になった者達の死体があちこちに転がっている。

「早く帰りましょ。リークやメイドの皆さん達にも伝えないと…!」

 メイルとマッシュは、手を繋いで足早にナジャの別荘へと向かっていく。
 街の繁華街から離れ、別荘が遠くに見え始めて来た時、夫婦は誰かに呼び止められる。

「?!」

 夫婦がおそるおそる振り返ると、そこには傷だらけのレジスタンスのリーダー、ザナドゥの町長が立っていた。

「メイルとマッシュのご夫妻だな…ケインから話は聞いている」
「!」
「危害は加えない。ところで…リークは?ナターシャらしき人物が皇帝に連行されて行くのは見えたが…」

 夫婦は迷った挙げ句、リークは別荘にいる。と正直に伝えた。

「そうか、巻き込まれなくて良かったな」
「確かにそうかもしれないわね。あなた、それより傷が…」

 メイルはとりあえずレジスタンスのリーダーを別荘へと連れて行き、そこで医療魔術と手当てをする事に決めた。
 別荘へと到着した3人は、メイドや料理長、そしてリークへローティカの街で行われた軍事パレードで起きた事全てを包み隠さず話した。

「…」
「…」
「…ナターシャ…」

 リーク含め皆絶句と言った表情だった。更にメイドの顔は真っ青になっている。
 リークの拳も小刻みに震えだした。

「ナターシャは、どうなる…?」
「皇帝の寵愛を受けると、言われたという事は…慰み者として扱われるのかもしれないわ」
「そうか…」

 レジスタンスのリーダーを自身の医療魔術で応急処置したメイル。メイルは彼を試すように彼女を取り返せるかどうかを聞いた。

「分からない。うちのレジスタンスは…私以外もう生きていないかもしれない。元を辿れば玉砕覚悟の襲撃だった。…彼らの事を思うと自分が情けない」
「情けない事は無いわよ。生きるのは大事な事なんだから」
「…」
「それで、もし取り返せるなら…どう行動する?」

 レジスタンスのリーダーは少し考え抜いた後、口を開く。

「残っている各地のレジスタンスと連携して、宮廷を攻める。そして、民の動きがあれば…」
「行けそう?」
「だが、私だけでは無理だ」
「でしょうね」

 メイルはリークへ目線を向ける。

「リーク、あなたは…戦える覚悟は出来てる?」

 リークはすぐには答える事が出来なかった。