ナターシャ達がナジャの別荘に向かう時。ザナドゥの町では何が起こっていたのか振り返る。

「っし、ナターシャ達迎えに行くかぁ!」

 早朝の漁を終えたケインは、リークの家に向かって歩いていた。理由は漁に誘う為だ。
 藪を掻き分け、木々の茂った道を歩く。

「…」

 しかし、そこにあるはずのものは忽然と姿を消していた。

「おかしいな、家この辺だったよな」

 ケインは頭を傾げながら、辺りを探すもリークの家やメイルとマッシュ夫妻の家は見当たらない。
 しかし、あるものは見つかった。

「!」

 土の道に落ちていたのは、血痕。実はこれ、メイルが水鏡で転移する際に残したダミーの血痕である。
「ナターシャらは魔獣に襲われ、命を落とした」と見せかける為のダミーだ。ちなみに魔獣は、ウサギのような魔力を使える獣全てを指す。

「大変だあ…!」

 見事にダミーの血痕に引っかかったケインは、すぐさま町長…レジスタンスのリーダーにこの事を報告した。
 レジスタンスのリーダーは、残念そうな表情を見せる。勿論彼もまた、ダミーの血痕である事には気づいてもいない。

「不幸な事だ…」
「ああ…嘘だと言ってほしいぜ…」

 ケインはいつの間にか、涙を流していた。彼の頭の中では可憐に笑うナターシャの顔が浮かんでいる。

「だが、この辺に魔獣はいたか?」
「いいや…鹿や小動物くらいならたまに見かけるが…」
「そうだよなケイン。魔獣はおろか熊や虎も滅多に見ないはずなんだが…」

 ここで、レジスタンスのリーダーはある仮説にたどり着いた。それは皇帝が魔獣をけしかけた。という説だ。
 その説は間違いではあるが、彼らからすれば疑う余地はあまり無い話になる。

「バレたか」
「!」
「だから、魔獣をこの地によこした…そして見せしめにナターシャ達を…!」
「り、リーダー…」
「レジスタンスを集めろ。緊急会議だ…!!」

 町長の家の地下に、レジスタンス全てのメンバーが集められた。

「どうも、皇帝にバレたようだ」
「!!!」

 レジスタンスのメンバーは、次々に騒ぎ立てて動揺を見せる。

「計画を変更する。我々はこの地を捨て、ローティカに向かう」
「リーダー…」
「そして皇帝の軍事パレードにて、総攻撃を行う」

 総攻撃。それは即ち、メンバー全ての死・玉砕を意味している。
 どうせバレて捕まり、処刑されるくらいなら…というレジスタンスのリーダーの考えによるものだ。

「参加したくないものは、今すぐここから出ていけ、そして逃げて生き延びよ」

 レジスタンスのリーダーのその言葉に、メンバーの3分の1がその場から出ていった。

「残った者よ…ありがとう。家族との別れの挨拶は、大丈夫か?」
「大丈夫です!リーダー!」
「我々は戦って死にます!」

 仄暗い地下空間が湧き上がる。この場にはケインもいた。

「では、会議を始めよう」

 レジスタンス玉砕特攻総攻撃に向けての会議が、始まったのだった。