パチパチ…パチ…
 
 炎が勢いよく燃え盛り、私の体を焼いていく。もう痛いという感覚も何もかも失っていく中、残された最後の意識で「私」という人生を振り返る事にした。
 
 私の名はナターシャ。名家の生まれで皇太子の妃だった。次期皇位継承者の第一夫人…という存在になる為には言葉通り何でもした。人を傷つける事は勿論、殺しもした。悪女と言われればその通りだ。
 
「ははっ悪女め!民の痛みを思いしれ!」
「悪女には火あぶりがお似合いだあ!!」

 銃殺刑も絞殺刑もギロチンもあるこの国で、罵声を浴びつつ生きたまま火に焼かれているという事は、私をより痛めつける刑に処したいという意志があるのだろう。

「…」

 どんな女も男も蹴落としてきたが、最後は皇太子及び皇帝にバレて、こうして火あぶりの刑となった。私はその刑を抗う事無く受け入れ、今こうなっている。
 
 ああ、もしも生まれ変わったら今度は後宮とは関係ない所でゆっくり過ごそう。森の中で静かに暮らす。うん。それがいい。
 誰にも縛られず、出来たら森の中の家で静かに暮らそう…

「…」

 こうして私の視界は完全に真っ白になった。

「…あ」
 
 次に目を開けた時。私はなんと森の中にいた。前世だった時とは比べ物にならない程にズタボロの服を着ている。そうだ。これは「私たち農民」の服だ。
 そして腕のあちこちから出血している。

「ここは…」

 うっそうとした森林に、鳥の鳴き声と風のざわめきが聞えてくる。木漏れ日が若干降り注いではいるが、それでも辺りはうっそうとしていて暗いのには変わりない。

「モア、おつかい頼んだわね」

 そうだ、母親におつかいを頼まれたんだった。モア…これは今の姿の私の名前。そしてさっき脳裏に流れた記憶は…前世の私の記憶。

「私は…モア、いや、ナターシャ…」

 全身を突きさされるような痛みに耐えながら草木をかきわけ前へと進んでいくと、しばらくして横に人が二人分は通れそうな獣道が現れた。私はその獣道を更に進んでいくと、森の中にぽっかりと家及び空間が広がっているのが見えた。

「誰かいるのか」

 私は息を整えておそるおそる家のドアをノックした。

「はーい」

 家の中からどすどすという脚音と共に男の声が聞こえてくる。

(どんな人だろうか)
「なんですか?」

 ドアを開けて現れたのは、長身の人間に狼の耳が生えた狼男だった。