「あなた、何で……。」
 崩れたのは、私の足元の方だけでしたよ。

 というか私を殺そうとしていたはずなのに、どうして泣きそうな目で、私の無事を確認しているんでしょう。
 生きていればトドメを……と考えているようには、とても見えません。


 私の疑問をよそに、夫は強く、強く私を抱きしめてきました。


――イタイイタイイタイ!
 やっぱり殺す気ですか!?
 離してください~~っ。


 もがくように捻った体が夫のヘッドライトに当たり、カタンと音をたてて落ちました。
 明かりが消え、瞬時にあたりは真っ暗闇。それに気を取られたのか、夫の締め付けていた腕が緩みました。


「ぷはぁ。」
 ようやく息をつけ、生き返った心地です。


 肌に感じる冷たい空気に導かれるように、私は谷底から上を見上げました。
 その動きに合わせるように、夫も上を見上げたのが分かりました。


 鍾乳洞は暗く――、ですが見たこともないほどキラキラ輝く石灰生成物に埋め尽くされ、まるで宝石箱のようでした。