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 お嬢様は1歳になり、離乳食を始めた。

 見るからに不味そうな、野菜の離乳食を、お嬢様は嫌がることも残すこともなく、黙々と平らげていく。


 あるときなんて、料理人が休みの日に私が適当に作った離乳食は、塩と砂糖を間違えていた。それなのに……。

 お嬢様は、全く変わらない表情のまま、黙々と食べ、完食していたのだ。
 さすがに、これに気付いたときは、背筋が寒くなった。


 離乳食を始めた頃から、お嬢様が私をついて回る奇行は減っていった。

 その代わり、お嬢様が、黙々と廊下を往復している様子を、度々見かけるようになった。
 無表情のまま、軍隊のように無機質に、廊下を延々と往復し続ける幼な子。


 何かの呪いですか――。


 呪いといえば、最近。
 開けたはずのお嬢様の部屋のカーテンが、知らないうちに、閉まっているのだ。
 怖過ぎるので、もうカーテンには触らないことにした。
 

 驚いたのは、先日、お嬢様がベビーベッドで昼寝をしていたときのこと。重めの掛布団が、お嬢様の顔を覆うように、上にかかっていたのだ。

 焦って布団をはぐと、そこには能面のように目を閉じる乳児が!!
 脳裏に『家政婦、子どもを窒息死させる』という新聞見出しがよぎった。


――お嬢様は、寝ていただけだった。


 その日以来、お嬢様は昼寝をするとき、いつも、顔を覆うように布団を被り、下半身だけまるっと出して寝ている。

 お嬢様の世話役は、基本的に私一人なので、ツッコみを入れようにも相手がいない。