翌日、私は朝のうちに水やりを済ませ、一時限目が終了すると、丁寧に黒板を消した。 

 何を隠そう――、私は、黒板消し職人なのだ。完璧に美しい状態の黒板にするのは、こだわってみると、なかなかに面白い。


 二時限目の数学教師は大袈裟な人で、

「おお。きれいに消してあるな! 書くのがもったいないなー、これは。今日の日直は……、杵築と黒瀬か。さすがだな!」

 と褒め称えた。
 杵築は、何もしてないけどね。


 職人は、仕事を褒められて悪い気はしない。ニ時限目の後も、私はイソイソと黒板を消すべく、前に向かおうとした。

 そのとき。

 机の横を通って前に行こうとした私の腕を、掴んで止めたのは、杵築だった。


「待て。――次は、俺がやる。」

「え…? じゃあ、一緒にやりますか。」
「いや。俺一人でいい。」


 私に負担をかけ過ぎないための配慮かな、とも思ったけれど。


 三時限目が始まったとき、担当の国語教師は、先程の数学教師と同じような反応をした。
  
「おお。すごくきれいに消してあるなー……(以下略)。」


 そう、杵築が消した黒板も、私に匹敵するほどパーフェクトに消してあったのだ。


――こやつ、やるな……。


 私は、腕を組んだ。
 杵築の背中から「どうだ。見たか。」という声が伝わってくるようだ。