「……手。」


 杵築の視線の先には、私の右手。



――ああ! もしかして。


 杵築は、私が昔、他人の口が付いた楽器をこまめに拭いていたのを覚えていると。
 それで、さっき仲田くんと繋いだ手を拭けるようにと、ウエットティッシュを1枚くれると?


――いやいや。


「大丈夫です。そこまで潔癖症じゃないんで。」


 一体、私を何だと思っているんだ。

 杵築は納得したのかどうなのか、それ以上、声はかけてこなかったけど。



――びっくりした~~。


 記憶力のいい奴だ、まさか覚えていたとは。やっぱり、杵築には、極力関わらない方が安全だな。


 私はその後、無事に合唱と、証書を受け取る役を終えた。

 今回、一緒に歌った女の子たちと少し仲良くなれたことが、一番の収穫だと思っている。