帰り際に、私は、紗和子さんのお父さんから、「待て。」と呼び止められた。


「――まずは、さっきの無礼を謝ろう。黒瀬家の令嬢だったとは、知らなかった。」

 謝ると言ってるわりには、ずいぶん、尊大な態度だ。

 こちらに気付いて、近付いて来た杵築に対しても、紗和子さんのお父さんは、鋭い視線を向けた。


「裕也くん、フェアじゃないだろう。今日の様子を見るに、彼女が本命の候補者なんだろうが、私は知らなかった。競う相手を知らない勝負では、こちらが不利すぎる。」


――ん? 本命の候補者?


 いや、違いますよ……と言いかけた私を、杵築は手で制止した。
 そして、スッと私の前に立ち、紗和子さんのお父さんに対峙した。


「そう思われるのなら、馬鹿げた勝負は無しにして頂きたい。申し訳ないですが、自分のことは、自分で決める考えです。」

「な……! 馬鹿げただと……!」


 紗和子さんのお父さんは、頭から湯気が出そうなほど怒って、私を睨みつけている。

 このままでは終わらない雰囲気だったけれど、「お前は先に帰れ」と杵築が言うので。私は、後のことが気になりながらも、帰路についた。


 持ち帰ったお土産は、かなり美味しかった。