「わぁ。このお魚、パパが釣ったの?」

 釣った魚のサイズを誇示するかのように、魚拓が飾られている。
 これ単体なら素敵だと思うけれど、周りのゴチャゴチャしたオブジェに混ざると、途端に趣味が悪くなるから不思議だ。

 とはいえ、いきなり否定から入るのは悪手である。


「あ、こっちは、パパとお魚の写真だ。」
「すごいだろう。それは3年ほど前に釣ったものなんだ。」

 チョロい父は、途端に上機嫌になった。ベラベラと自慢話が続きそうなところを遮るべく、私は「すごーい!」と食い気味に声をあげた。


「……あれ、でも。」
「?」
「お魚の写真はあるのに、ママと私の写真はないみたい。」

 悲しそうに呟くと、父は焦った顔をした。


 その瞬間、それまで影のように存在感を消していた秘書長さんが、絶妙なタイミングで割って入ってきた。

「それでは、これを機に模様替えをされては、いかがでしょう?
 調度品は整理して、魚拓等はご自宅で鑑賞できるように移して。社長室には、家族写真を一枚飾る形にしては?」


――ああ、この人も、この部屋は「ナイ」と思っていたんだ。


 私は直ちに、話にのった。

「いいんですか!? じゃあ、私、写真をえらびます。目立つと恥ずかしいから、父だけが見るための小さいものを。」

「素敵だと思います。」

 秘書長さんはニッコリ笑ってくれた。