「?」

 私は、佐々木くんの視線の方向を振り返った。そして、何も見なかったことにして、温泉の奥に向かおうとした。

 しかし、私を追いかけるように、高速移動で温泉に入ってきた羽村に腕を引かれ、私はまた、浅瀬に腰掛ける羽目に。
 

「黒瀬さん。あなたという人は――っ。」


 羽村は、地を這うような声を絞りだすと、額を押さえて、クラっと倒れそうになった。
 怒りのあまり、酸欠になっているようだ。


「生徒会役員ともあろう者が、そんな水着を着て、しかも、そんなに体を汚して……。これだけ口で言っても分からないなら、これはもう。

 ――考えるしかありませんね。」


――何を?


 ブツブツ呟くおかしな羽村を尻目に、私は、佐々木くんの方に近寄って小さく耳打ちをした。

「そこまで怒らなくてもねー。いくら何でも、ちょっと変なんじゃ……。」


 言えたのはそこまでだった。


 私は、「あなた、わざとやっているんですかねえ?」と怒っている羽村に腕を引かれて連行され、佐々木くんにバイバイを告げる間もなく、そのまま石灰棚の温泉を後にした。


 和くんは一人残って、温泉を堪能したそうだ。