もうすぐクリスマス会というある日。

 昇降口を出て、学園の門までの並木道を歩いていると、後ろから、「黒瀬さん」と呼び止められた。


――愛花ちゃんだ。


 生徒会室以外で、愛花ちゃんから話しかけられるのは、何気に、珍しい。


「月乃さん。どうかした?」

 私は首を傾げた。


「忙しいのに、呼び止めてごめんね。
 いきなり、こんなことを言って恥ずかしいんだけど――。
 実は、お願いがあるの。」

 愛花ちゃんは、ちょっと言いづらそうに、言葉を切った。


「お願い?」

 愛花ちゃんからお願いとは、ますます珍しい。私にできることなら、何でもするけれど……。
 

「今度のクリスマス会のときに――。」

 愛花ちゃんは、言葉をひとつひとつ確かめるように、ゆっくりと言った。


「私が杵築くんと二人になれるように、協力してほしいの。」