でも、結果としては、これで良かったのかもしれないと思う。

 この日の失敗のせいで、奥様のネットワークは完全に破綻し、奥様は詐欺――もとい、ネットワークビジネスから完全に足を洗うことになった。

 私も本当は、こんな悪どいことの手伝いをさせられるのは、嫌だったのだ。
 ビジネスをやめた奥様は、抜け殻のように、日がな一日、ぼーっと趣味に興じることが増えていった。



 不思議なことは重なるもので、奥様のランチ会騒動があったその翌日、旦那様も血相を変えて、バタバタと探し物をされていた。

「何か触ったか?」

 と聞いて回っておられたものの、そもそも使用人が旦那様の部屋に入ることは厳禁、掃除すらさせてもらえないのだ。
 立ち入っていないのだから、触るはずもない。


 数日後、旦那様も奥様と同じように、魂が抜けた状態で帰宅された。
 何か、大きな失敗をなさったらしい。

 紛失されたのは、裏帳簿か何かだったのだろうか――というのは冗談だけれど。それ以来、旦那様はいきなり老け込んだようで、ギラギラした強烈な雰囲気がなくなったのは事実だ。