――はい?


 今、黒瀬って言ったような。


「よ、呼ばれてるよ!」 

 柳瀬さんがびっくりしたように、私の腕を掴んだ。あ、やっぱり、黒瀬って言ったのか。というか、杵築は、私の名前を覚えていたんだな。


「黒瀬と、その友達――。ああ、いたか。」

 杵築は、私と柳瀬さんを見つけたようで、わざわざこちらまで一直線に歩いてきた。
 モーセが歩くがのごとく、周りの生徒らがザザッと後退って、杵築に道をあける。

 杵築は、「スタンプを押し忘れていた。」と言うと、私と柳瀬さんのカードにスタンプを押した。


――律儀な奴!!


 私達にまでスタンプを押したら、愛花ちゃんの特別感がなくなっちゃうじゃないか。


※※※※


 この日、「杵築さんが黒瀬さんを探していた」という事実の方が周囲の印象に残っていたことを、私は知らなかった。

 ましてや、そのことで、愛花ちゃんの方が私の存在を意識するようになったことなど、知る由もなかった――。