十二月にしてはずいぶんとあたたかい日だった。
校舎からよく見える中庭(ここが大事)で、俺は葉月杏と一緒に昼休みを過ごしていた。
ニセモノカップルも一週間も続けば慣れてくるもんだ。

一緒にいることも当たり前のようになってくる。

「だからさ、もっとイチャイチャした方がいいと思うわけ」
「な、なんでそうなるんですか!」

動揺した杏はかわいい。
俺たちの関係はニセモノのはずなのに、本気で付き合っているのかと錯覚してしまいそうになる。

赤面しながらバタバタと手を動かしている杏の後ろで、こちらをよく観察しているやつらがいる。
七瀬きらら達だ。
これだけイチャイチャしてるのを見せつけても、諦めないことあるのか?
どう考えても常軌を逸してる。

これだけ俺を追ってくれたのが、もし杏だったら……。
なんてことを考えてしまう。
七瀬たちに嫌気がさして俺から提案したのに、最近の俺といったら。

下唇を噛みしめて、自制する。
杏も落ち着きを取り戻したようだ。

「あのですね、少し聞きたいんですが。神楽くんって女子に触れたりするの異常に慣れてませんか? もしかして、転校前はすっごいナンパとかしてたキャラだったんですか?」
「ばっ……そんなキャラじゃねぇよ!」
「でもそれじゃあおかしいじゃないですか」

そう思えば、なんでだろう。
よくよく考えると、不思議だ。

でも最初に杏を見たときから、告白されて嫌じゃないって感じた。
ちょっと目つきが悪そうに見える、吊り目が凛に似てるからか?
いや、そんな感じでもないな……。

「あのー、聞いてます?」
「お、おう。聞いてる聞いてる」

……もしかして俺、杏だからそうしたいって思ったのか?
こんなこと恥ずかしくて言えないけど、恋とか好きだのよくわかんねーんだよ、ちくしょう。

「あ、思い出した。これあげます」
「なにこれ?」

杏はキレイにラッピングされたクッキーを出してきた。

「カップルっぽくした方がいいんですよね? だから、その、手作りクッキーです」
「マジかよ」

受け取ったそれをマジマジと見る。
こんなの作れるなんて、こいつ天才だろ。

「あん……あんた、すげえな。すげぇうまそう」

つい、名前で呼びそうになる。名前で呼ぶのは、なんだか照れくさいっていうか。
手を繋いだりしてるのに今さらなんだって感じではあるんだが。

「あとこっちは、凛ちゃんのぶん」

俺のより遥かにたくさんクッキーが入った小包を渡される。
杏、そりゃあねえだろ。

だけど、凛とも遊んでくれるし、こういう優しいところが本当に――

本当に……なんだと思ったんだ、俺。

「寒いですか?」
「はぁ? なんで?」
「なんか耳、赤いですよ」

ああ、もう昼休みが終わっちまう。
休み時間がやけに短い学校なんだよな。