唐突に心に穴が開いてしまったような感覚。その痛みを一気に理解したのは、部屋から彼の存在が消えていたのを見てから。


 大人になって声を上げて泣いたのは、あれが初めてだった。


 静かに、眉尻から涙が落ちる。

 目を開け、空に浮かぶ月に微笑みかける。


「私たちは、太陽がいないと存在を示せないのにね」


 月も応えない。


 視線を落とし、指先で涙を拭う。

 手にしていたアルバムをカバンの中に入れ、ベンチから離れる。


「付き合ってくれて、ありがとう。少しだけ、吹っ切れた気がする」


 彼女が桜の木に声をかけたそのとき、スマホにメッセージが届いた音がした。

 カバンから取り出して確認すると、消せなかった連絡先から動画が送られている。


 混乱しながらベンチに腰掛け、スマホのロックを解除する。


秋希(あき)……?」


 動画をタップする指先は、震えていた。