七月二十九日の夜。
夏休みに入ってからもう十日も終わってしまった。

あと二日したら八月になる。
四月、春華は八月にはならないって言った。

冗談とかおどけて見せたわけでもない。
すごく真剣な顔で、本気でそう信じているみたいに言った。

でも八月はやって来るし、私はもうすぐ十八歳になってしまう。

そしたらまた正しく、私と春華の間には三歳の差ができる。

「春華ー」

パパ…元義父が使っていた部屋のドアの前で春華に呼びかける。

「なぁにー」

ドア越しに春華の声。

「開けていい?」

「いいよ」

ドアを開けたらお風呂上がりの春華が真っ白いTシャツを着て、うちわで自分をパタパタとあおいでいる。

「冷房つければいいのに」

「んー、暑いんだけどさ、冷房はちょっと寒すぎて」

「温度調整できるよ。やってあげようか」

「ううん。大丈夫」

「そう?…てか、もうお風呂入っちゃったんだね」

夜の九時。
いつもこれくらいの時間にはお風呂を済ませているから、もしかしてとは思ったけれど。

「うん。なんで?」

「花火しないかなって思って。でも入っちゃったらにおいつくし、明日にしよっか」

「花火!?」

春華は持っていたうちわを放り投げてまで私のそばまで来た。
瞳が爛々と輝いている。
やっぱり春華は子犬みたいだ。

「花火、知ってるの?」

「知ってるよ!でもやったことは無いんだ。打ち上がるやつの他にも手に持ってするやつもあるんだろ!?」

「そ…そうだよ?見たことも無い?」

「花火が打ち上がる映像なら観たことがある。それから部屋に飾れる透明のフィルムとか、家具的な感じなら!」

「何それ?」

「フィルム自体は透明で、復元させた花火の写真を転写してるんだ。動くやつもあって、天井とかに貼ったら花火を楽しめる。でも本物は見たことが無い」

「…やっぱ春華の世界って時々すごく古風な楽しみ方するんだね。でも動くのは凄いな」

「花火師っていうんだっけ?火薬を扱う職業は俺の世界では超特殊で、扱える人が居なくなっちゃったから花火は無いんだよ」

「そうなんだ。じゃあ花火する?」

「する!」