「学校に行ってもいい?」

新学期に入った頃、春華が言った。

「学校に?」

「うん。ヨヅキが冬休みの間、色々計画立てたけどさ、ヨヅキとは家で一緒に居られるけど、学校に行ってる時間も長いじゃん。だから一緒に通えたら一緒に居る時間も増えるし、ターゲットも探しやすいと思う」

春華はズルい。
″一緒に居る時間が増える″なんて言って、本当は修行がメインなんだ。
そんなこと最初から分かっているけど、私だけが春華の発言にいちいち反応してるみたいで悔しい。

「でも編入は絶対に無理だよ。春華の世界みたいにこの時代は自由じゃないんだよ」

「どうにかやって誤魔化せないかなぁ」

「百、無理だね。書類とか手続きが厳しいの」

「じゃあ潜りこむしかないかなぁ」

「そんなのバレたらどうすんのよ!」

「大丈夫。うまくやるよ」

どこからそんな自信が湧いてくるんだ。
何を根拠に言ってるんだ。

春華を連れてきた時のママと同じだ。
普通の人が聞いたら絶対に無謀だと思うことに、この二人は謎の自信を持っている。

「ねぇ、お隣さん、男の子の子どもが居るよね?」

「うん。女の子は私と同い年で、高校も一緒なの。その子のお兄ちゃんだよ。去年、私達と同じ高校を卒業して、今は大学生。あ、大学生っていうのは、」

「高校生よりも大人ってことだよね」

「うん、そう」

「同じ高校だったってことは、ヨヅキと同じ服も持ってる?男子用の」

「制服ってこと?さすがにまだ取ってるんじゃないかなぁ」

春華が爛々とした瞳で私を見つめている。
嫌な予感がした。

春華に犬みたいに尻尾がついていたらブンブン振っているに違いない。

「何…」

「貰ってこれない?」

「何を」

「制服に決まってんじゃん」

特大溜め息をついた私に、春華は相変わらず瞳を輝かせて手を合わせた。

「お願いします、ヨヅキ様!」

「そんなの無理だよ!私は女子だよ?男子の制服なんて必要無いじゃん」

「大丈夫。えーっと」

春華が私の部屋の窓から外を見下ろした。
窓を開けられたから冷たい風が吹き込んで一気に寒くなった。

「春華、寒いよー」

「あ、あの子がいいな」

「えー?」

春華の隣に行って、私も立ち並ぶ家々を見下ろした。
お隣さんの玄関の前で遊んでいる男の子が居る。

「あの子も、あのうちの子?」

「違うよ。近所の子だと思う。たまに通学路で見かける気がする。たぶん八歳…小学二年生くらいだよ」

「オッケー。ヨヅキ、ついてきて」

春華が窓を閉めて、部屋を飛び出した。
春華はいつも突然走り出す。
クリスマスイブの日もそうだった。

そんな春華を私はいつも追いかけている。
階段も一気に駆け下りた春華は靴を履きながら私に手招きした。

「早く、早く」

「もー、何しに行くのよ!」

私が靴を履き終えたら春華が私の手を掴んだ。
何げなくやる仕草も、もう少し考えてからやって欲しい。
変にドキドキしちゃうんだよ。
もちろん、拒否はしないけれど。