君を愛していいのは俺だけだ~コワモテ救急医は燃える独占欲で譲らない~

 「えっと、君が鈴原さん?」
 「あ、はい!そうです」

 ぼんやり男性を眺めていた菜乃花は、この方か!と慌てて頭を下げる。

 「あの、昨日は大変失礼いたしました。今日はわざわざ届けに来てくださってありがとうございます。お忙しい中、本当に申し訳ありません」
 「いや、大丈夫。でも良かった、すぐに分かって」

 え?と菜乃花は首を傾げる。

 「ほら、女の子はすっぴんだと別人になるって言うからさ。どれくらい変わってるんだろうって、ずっと考えながら来たんだ。でもすぐ分かったよ、昨日の子だって」
 「あ、そうでしたか。すみません、化粧のしがいがない顔で…」
 「ははは!あ、いや、ごめん。そんなことないよ。君、真面目な顔して面白いこと言うね。おっと、肝心なものを忘れるところだった」

 そう言って男性は助手席のドアを開けると、菜乃花のポーチを取り出した。

 「はい、これ。君のもので間違いないかな?」
 「あ、はい。間違いありません。お手数をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。あの、今日は時間がなくて手ぶらで来てしまいまして。後日、改めてお礼をさせてください」
 「まさか、そんな。気にしなくていいよ」
 「でも、私がお伺いしなくてはいけない立場なのに、わざわざ来てくださって…」
 「本当に気にしないで」
 「でしたら、せめてご住所だけでも。お礼の品を送らせていただきます」
 「いいってば。でもそんなに言うなら、昼食つき合ってもらえる?」
 「は?昼食、ですか?」
 「そう。お腹空いたから、この辺りで何か食べようと思ってたんだ。どこか良い場所知らない?」

 はあ、と気の抜けた返事をしながら、菜乃花は考える。

 「えっと、有名なお店ではないのですが、地元では人気のあるトラットリアがあります」
 「へえ、いいね。車で行ける?」
 「はい。駐車場もありますし、ここから5分くらいで着きます」
 「よし、そこにしよう。乗って」
 「え?ええ?!」
 「ほら、早く」

 ドアを開けて促され、菜乃花は仕方なく助手席に乗り込む。

 「じゃあナビよろしく」
 「あ、はい」

 菜乃花の道案内で、無事にお目当ての店に到着した。