「菜乃花ちゃん、お疲れ様」

おはなし会を終えて子ども達を見送り、カウンターに戻ると、主婦のパートスタッフに声をかけられた。

「お疲れ様です。谷川さん、私、裏で目録の作成してますね。カウンターの人手が足りなくなったら声かけてください」
「はーい、ありがとう」

菜乃花は笑顔で頷くと、バックヤードに入ってパソコンの前に座る。

新しく入ってきた本を片手に、カタカタと本の情報を打ち込んでいると、先程の谷川がひょっこり顔を覗かせた。

「菜乃花ちゃん、ちょっといい?本のお問い合わせなんだけど、私、思い当たらなくて」
「はい、今行きます」

作業を中断してカウンターに行くと、顔馴染みのおじいさんが谷川と話していた。

「加納さん、こんにちは」
「おお、菜乃花ちゃん。悪いね、本が見つからなくて」
「いいえ。どんな本をお探しですか?」
「それがね、もうすぐ冬休みで遊びに来る孫が読みたがってる本なんだけど、名前が難しくて…。なんとかのかばんの国、とかなんとか」

ん?と菜乃花は首をひねる。

「かばんの国、ですか?」
「うん。確かそんな感じだった」

隣にいる谷川も、困ったように眉根を寄せている。

「検索かけたけどヒットしなくて。菜乃花ちゃん、子ども向けの絵本に思い当たるものある?」
「うーん、そうですね…。加納さん、お孫さんは今おいくつですか?」
「小学5年生なんだ」
「5年生…」

それなら、絵本ではないのかもしれない。

「お孫さんが、その本が読みたいってお話してくれたんですよね?」
「そうなんだ。なんでも人気の本らしくてね。友達の間でも話題になってるから、読んでみたいって」
「なるほど…」

菜乃花は視線を外してしばし考え込む。

(小学生に人気の本なら、間違いなくここにもあるはず)

いくつかの本のタイトルを思い浮かべているうちに、ハッと閃いた。

「加納さん。ひょっとして『ピーターとオズカバンヌの王国』じゃないかしら?」
「あ!それだ、それ!」

前のめりに頷くおじいさんの横で、谷川が、ええー?!と仰け反る。

「ぜ、全然違うじゃない…」

呆然と呟く谷川に苦笑いしてから、菜乃花はカウンターを出ておじいさんを本のある場所まで案内する。

「加納さん、これがその本です」

手渡すと、おじいさんはうんうんと頷く。

「間違いなくこれだよ。表紙の絵に男の子と時計塔が描かれてるって言ってたから」
「良かったです!ちなみにこの本、シリーズになっていて、これは3作目なの。1作目から5作目まで揃ってるから、お好きなだけ借りてくださいね」
「ありがとう、菜乃花ちゃん。じゃあちょっと選んでみるよ」
「はい、ごゆっくり」

菜乃花は微笑むと、カウンターへと戻る。