いくつか案はあった。
抹茶やきなこを使った和風スイーツを作るとか、配膳のときに口頭でサービスを入れるとか。
現実的に可能かどうかはともかく、街を探しまわって和菓子を調達するのも一案だ。
しかし、どれも説得力に欠けるなと悩んでいたときだった。
『ここのホテルの近くに、たしか老舗の和菓子屋さんがあったと思うんですけど……』
宮戸さんが、はっとするようなことを言い出した。
調達は俺も考えたが、具体的な店の指定までするのは思いつかなかった。
シミュレーション開始時に先生が実在するホテルの名前を出したのは、イメージしやすくするためだとわかっていたのに、俺はちゃんとイメージできていなかったんだ。
授業が終わったあと、宮戸さんから、ホテルの近くに和菓子屋があるとどうして知っていたのか理由を聞いた。
情けない理由でごめんと彼女はあやまったけど、俺は情けないとは思わなかった。
学ぶきっかけとなったできごとは、決して人に自慢できるようなものじゃなかったとしても、ひょんなところから結論を引っ張り出してくる。宮戸さんの思考がおもしろいと思ったんだ。



