おびえたくなるのも、尊敬したくなるのも、わかる気がする。

だって、L社といったら世界規模の大企業。資産も知名度もあるし、業績は右肩上がりだと前にニュースで見た。

S学生が自慢する家柄がささいなものだと感じるくらい、すごい会社だ。


そんな会社の社長の息子が、エリート科とはいえ下に見ていた鷹見くん。

とくに十和田さんの顔が青ざめていくのが、目に見えてわかった。

ちょっとだけ、くちびるがふるえてる。


とそのとき。


「おまたせしました」


理事長がやってきた。


「どうしました?」

「いえ、なんでも。行こう」


鷹見くんにうながされて、わたしたちは、S学生の視線が痛いほどつき刺さるなかを歩き出した。


視線はすべて、鷹見くんがひとりじめ。

わたしの視線も鷹見くんから離れない。


すると、奏音ちゃんがこそっと話しかけてきた。


「タカミ社長の息子ってやばくない?」

「うん」

「でも、どうして執事科を選んだんだろう?」


ほんとだ。どうして執事科にいるんだろう。

S学は、面談とかんたんな学力試験、高い入学金と学費を払えば入学できる。

鷹見くんならS学に入学できたはず。


どうして執事科に入ったのかな?