「空の小説、半分くらい読んだ」

先輩の言葉におどろく。
だってわたしの小説って短めだけど三十作品くらいあるから。

「あれからまだ一週間くらいなのに」
「部活にむけてた集中力で読んでる」

パソコンかスマホかわからないけど、真剣に画面を見てる先輩を想像して笑ってしまう。

「あれがおもしろかったな、異世界転生した主人公が科学の知識で出世してく話」
「あの、あれはわたしもお気に入りです。あれを書いてたときは、理科の授業をすっごく真剣に聞いてました」
本当に読んでくれたんだ、ってうれしくなる。

「空ってファンタジーが好きなの?」
「読むのはなんでも好きだけど、書くってなると……現実のお話ってむずかしくて。自分みたいな主人公になっちゃいそうで」
現実のお話を書こうとすると、いつもアユちゃんとアユちゃんに書いてる作文のことがチラついてしまう。

「ふーん。でもいつか読んでみたいな、そういうのも」

また、先輩が笑顔を見せる。

宙先輩は、よく笑う、なんだかキラキラした人だなって思う。