「紫苑さんの話を聞いていて、思い出したけど。咲来は幼い頃から、本当に優しい子だったわよね。転んで怪我をした聖来をおんぶしてあげたり、妹の面倒見もよくて。それなのに、どうして今まで忘れていたのかしら」


母はどこか、遠い目をする。


「咲来の学校の成績が悪くて。でも、甘やかしたら咲来のためにならないからと、叱るようになって。いつしかどんどん、それがエスカレートしていって。怒ることが普通になってしまっていたわ」


初めて聞く母の話に、私は目を見開く。


「聖来と比べられたら、妹に負けてなんかいられないと、咲来もやる気を出してくれるんじゃないかって思っていたの。でも、それも間違っていたわね。何を言っても言い訳になってしまうけど、咲来……本当にごめんなさい」

「ママ……」

「聖来から聞いたわ。数学の期末テストも、点数が上がったみたいじゃない。一番苦手な数学で86点をとったなんて凄いわ。咲来、よく頑張ったね」


母が、私へと優しく微笑んでくれる。

母の口から『頑張ったね』という言葉を聞けて。久しぶりに、笑顔を向けてもらえて。


たったそれだけで、なんだか今までの辛かったことが全部、報われる気がした。


だって、やっぱり……何だかんだ言って私は、母のことが好きだから。