「それで、中学からは父さんの知り合いが理事長をしている西ヶ花学園に入って。理由を話して、学校では特別に別の苗字を使わせてもらって。顔を隠して、学校生活を送るようになったってわけ」
そうだったんだ。
「紫苑くんも、苦しかったんだね」
大財閥の家に生まれて、容姿にも恵まれて。
何不自由ない生活を送って。
もしかしたら周りからは「いいな」「羨ましいな」と思われるのかもしれない。
だけどそのせいで苦労したり、その人にしか分からない苦しみもあるんだな。
「そもそもは、自分の正体を隠すために入った西ヶ花学園だったけど。今では、本当にあの学校に行って良かったなって思えるよ。だって、咲来に出会えたから」
紫苑くんが床に片膝をつき、私の前でひざまずく。
「俺は、咲来のことが好きだ。この気持ちだけは、何ひとつ偽りなんてない」



