「滝川くんが北条財閥の御曹司だったなんて、信じられない。こんなことなら、学校であんな失礼なことを言うんじゃなかった」
「聖来。もしかして俺が御曹司だって分かったから、そんなことを言ってるの?」
嘆く聖来を、紫苑くんは冷ややかな目で見つめる。
「本当に、君みたいな子には困るよ。大抵の人は、俺の容姿や家のことしか見ていない。だから、嫌だったんだ。素顔を晒すのは」
紫苑くんの顔が、聖来から私へと向けられる。
「紫苑くん?」
「咲来。今まで嘘をついていてごめんね。俺の本当の名前は、北条紫苑。俺の家はこの北条財閥で、滝川は母の旧姓なんだ」
お母さんの旧姓?
「でも、どうしてわざわざ学校で偽名を使ってまで、正体を隠していたの?」
「それは……普通に、ただ静かに学校生活を送りたかったからかな」
「普通に?」
「うん。小学生の頃から俺が北条財閥の息子っていうだけで、近づいてくる女子は多くて。毎日のように告白はされるし、ただ歩くだけでキャーキャー言われて」
まっ、毎日のように告白!? イケメンの御曹司も大変なんだなぁ。
「最初は好意を寄せてもらって、有難いなと思っていたけど。時間が経つうちに、盗撮やストーカーみたいなことまでされるようになって。それがだんだんとしんどくなってきて、苦痛だったんだ」
まさか紫苑くんに、そんな過去があったなんて。



