「……は? シオンさま、今なんて?」
聖来は、開いた口が塞がらない様子。
「君の相手をするのは、ここまでだ」
聖来を見るシオンさんの顔は、いつの間にか笑みが消えている。
「俺が婚約者候補になって欲しいのは……聖来さん、君じゃない」
するとシオンさんが突然私の腰に手をまわし、自分のほうへと抱き寄せる。
「俺の婚約者候補は、君の姉である水瀬咲来さん、この子だけだよ」
……え!?
「どっ、どうしてなのよ、シオンさまっ!」
叫ぶ聖来同様、私も最初は少し戸惑ったけど。
シオンさんに抱き寄せられて、すぐに分かってしまった。彼が、本当は誰なのか。
そう。彼は、私が大好きな……。
「……紫苑くん?」
「ああ。やっぱり咲来はちゃんと、俺だって気づいてくれたんだね」
目を細める彼。
「ちょっとシオンさま、なぜなの!? どうしてわたしよりも咲来ちゃんなんかが……」
「ねぇ、聖来。まだ分からないの?」
低い声で言うと彼は左目を長い前髪で覆い、スーツのポケットから眼鏡を取り出して、耳に掛ける。
そしてようやく気づいたのか、聖来が目を大きく見開く。
「うそ! あなた、もしかしてクラスメイトの滝川紫苑!?」
「うん、正解。ここまでしないと分からないなんて。聖来、君は本当にバカだね」
「そんな……」
聖来の体がよろめき、倒れそうになる。



