今ここに紫苑くんはいないのに、そんなことを思ってしまうなんて。
もしかしたら私は……紫苑くんのことが、好きなのかもしれない。
目を閉じると頭に浮ぶのは、紫苑くんの笑顔。
紫苑くんを見てると最近やけに胸がドキドキしていたのも、全ては彼を好きだからだというのなら納得がいく。
そっか、そうだったんだ。
私、こんなふうに誰かを好きになったのは初めてだよ。
「それでは、息子のシオンからも皆様に一言、ご挨拶をさせて下さい」
えっ。シオン!?
突然聞こえた『シオン』という名前に、私の耳はピクンと反応する。
北条財閥の御曹司の方のお名前も、シオンって言うの!?
って、いやいや。違う違う。
私がさっきからずっと紫苑くんのことばかり考えているから、きっと聞き間違えてしまったんだ。
今は大事なパーティーの最中なんだから、ちゃんとしなくちゃ。
私は、ブンブンと首を横に振るけれど。
ようやく自分の気持ちを自覚した私は、再び紫苑くんのことを考えてしまう。
「えー、皆様こんにちは。本日は、お越し下さり……」
ステージでは、御曹司の方がマイクの前に立って話し始めたけれど。
どこか上の空な私の耳に、彼の話が入ってくることはなかった。



