床からメガネを拾ったときに、私は分かってしまった。紫苑くんがいつも掛けているメガネは、伊達メガネだってことが。


「ああ、これ? うん、そう。実は、伊達メガネなんだ。ちょっと顔を隠したくて……」


顔を隠す? 一体どうして?

紫苑くんほどの美貌の持ち主なら、何も隠す必要なんてないのに。


「まぁ、何ていうか。俺、自分の顔にあまり自信が持てないっていうか……」


私が首を傾けたからか、紫苑くんが答えてくれた。


「そんな! 紫苑くんは凄くかっこいいよ」


思わず私は、即答してしまった。


「ありがとう。咲来にそう言ってもらえると、嬉しいな」


そして紫苑くんが軽々と書棚の一番上から歴史の漫画本を取り、私に渡してくれる。


「だけど……今日見たこのことは、咲来だけの秘密にしてね」


紫苑くんが、自分の唇に人差し指を当てる。


その仕草が何とも可愛くて、私の胸はきゅんと鳴る。


「分かった。誰にも言わない」