「え?!」


キスというワードに、私は紫苑くんの唇を凝視してしまう。


「し、紫苑くん。キ、キスって、こんなところで何を言って……」


顔が一気に熱くなるのが、自分でも分かる。


私が戸惑うのもお構いなしに、紫苑くんの顔はどんどん私のほうへと近づいてくる。


キ、キスって紫苑くん……まさか本当にするの!?


紫苑くんの顔がドアップになり、互いの鼻先が触れそうになったところで、私は思わず目を閉じる。


「……」


だけど、しばらく経っても唇は一向に触れる気配がなくて。


「ぷっ。ははは」


少しして紫苑くんの笑い声が聞こえたので、私が目を開けると。

目の前に、紫苑くんの顔なんかもうとっくになく。


「なーんて。キスはさすがに冗談だよ」

「じょ、冗談?」

「うん、ごめんね」


紫苑くんは笑いすぎて涙が出たのか、指で目元を拭っている。


「泣くほど笑うなんて。紫苑くんひどい!」

「ごめん。咲来が可愛くてつい……」


紫苑くんに、ほっぺをつんっとつつかれる。


「すぐに顔赤くなっちゃって。咲来って素直で、ほんとに可愛いね」

「みっ、見ないで……」


私は、机に置いてあった教科書で自分の顔を隠してしまう。