1時間半後。
「うん。正解! 似たような問題もいくつか解けるようになったし。咲来は、飲み込みが早いね」
「そんな。滝……紫苑くんの教え方が上手だからだよ」
「咲来いま、滝川って言いそうになってたね。あと少しでお仕置きだったのに。ざーんねん」
紫苑くんが楽しげに笑い、彼のサラサラの黒髪が揺れる。
教室での滝川くんは誰とも交わらず、ほぼ無口だから。こうして彼が笑っているところを見るのは、ほんと新鮮。
「勉強始めて1時間以上経ったし、そろそろ帰ろうか」
彼に言われて図書室の窓に目をやると、燃えるようなオレンジ色だった空は藍色が混ざりつつあった。
「うん、そうだね」
この日はこれで、お開きとなった。
それから1週間後。
放課後の図書室で、私は今日も紫苑くんに数学を教えてもらっている。
「咲来、凄い! パーフェクトだよ」
紫苑くんが、彼お手製の数学の小テストに赤ペンで花丸をつけてくれる。
「ほんとこの数日で、ここまで出来るようになるなんて。咲来、天才じゃない?」
「いやいや、天才だなんて。紫苑くん褒めすぎだよ」
だけど、誰かにこんなにも褒めてもらったのは久しぶりだから。嬉しいな。
「でも、ありがとう。紫苑くんに教えてもらったから、出来たんだよ」
紫苑くんは、いつも本当に優しく丁寧に教えてくれて。解説も分かりやすいから。
彼にはすでに、感謝の気持ちでいっぱい。
「あの、紫苑くん。良かったらこれ、受け取ってくれる?」



